本研究の目的は、現代における国際社会の構造変化を背景として、今日、国際法上も存在すると説かれる強行規範の概念が、国内裁判において有する意義・機能について検討することにある。今年度は、外国国家免除に関わる問題(具体的には、例えば拷問のような「国際強行法規違反」行為についても国内裁判所は外国国家に裁判権免除を認めなければならないかという問題)に重点をおいて研究を行った。裁判例などの関連する実行や文献の収集・分析を主に行い、そのうち特に重要と思われる最近のヨーロッパ人権裁判所の判決(アル=アドサニ事件)については、研究会で報告した際に受けた批判やコメントをも考慮に入れた上で、分析の成果を雑誌に公表し、原告が利用できる手続が当該国での裁判の他に存在するか否かという視点がヨーロッパ人権裁判所には欠けていたこと等の問題点を指摘した。別の研究会では、武力行使の禁止という国際強行法規に違反してクウェートに侵攻したイラクがもたらした損害の賠償のために国際的な請求処理機関(国連賠償委員会)が設けられたことが、国内裁判所による請求の処理にとっていかなる意味をもつのかについて口頭報告を行った。また、今年度の研究のまとめとして、未刊行ながらも分担執筆した共著書において、国際法上の強行規範に違反する行為について外国国家免除は認められないという議論に関して批判的な考察を行い、そのような免除の否定は、少なくとも従来説かれてきた国際強行法規の法的効果によっては理論的に説明ができないこと、また、収集し得た実行の中にもそのような議論を支持するような例はほとんど見られないこと、さらに、立法論としても必ずしも望ましいとは言い切れないこと等を指摘した。
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