JNK経路は、JNK MAPK、MKK7 MAPKK、MLK MAPKKKから構成され、様々なストレスに対する応答に機能している。また、JNKは、MKP-7 MAPKホスファターゼによって脱リン酸化されると、不活性化する。これまでに我々は、線虫において、JNKホモログKGB-1、MKK7ホモログMEK-1、MLKホモログMLK-1がキナーゼカスケードを構成し、個体レベルでの重金属ストレス応答に機能していることを明らかにしてきた。また、KGB-1はMKP-7ホモログVHP-1によって負に制御されており、vhp-1欠失変異体では、KGB-1の異常活性化が起こり、致死性が生じることを見いだしてきた。しかしながら、KGB-1経路の周辺で機能する因子は不明であり、それらの因子の同定は個体レベルでのストレス応答機構を理解する上で重要である。そこで我々は、vhp-1変異表現型抑圧変異体を分離、解析することによって、KGB-1経路周辺因子の同定を試みてきた。その結果、vhp-1変異表現型抑圧変異として、哺乳類アダプタータンパク質Shcの線虫ホモログをコードするshc-1遺伝子の欠失変異を同定した。shc-1欠失変異体は、kgb-1欠失変異体と同様に、重金属に対して高い感受性を示すことから、重金属ストレス応答に機能することが明らかになった。また、shc-1欠失変異体では、mek-1欠失変異体と同様に、KGB-1の活性化がみられなかったことから、SHC-1はKGB-1上流で機能していることが明らかになった。さらに、SHC-1がMEK-1と結合すること、shc-1欠失変異体ではMEK-1の活性が低下することから、SHC-1はMEK-1の活性化段階でKGB-1経路を制御していると考えられる。アダプタータンパク質ShcによるMAPKKの活性制御は、個体レベルでのストレス応答機構の理解にとどまらず、MAPK経路の新たな制御機構を提示した点でも、大変興味深い。
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