多細胞生物は細胞周期を通してゲノムDNAの損傷や複製障害をDNA損傷チェックポイント制御機構で監視している。本年度は、Epstein-Barr Virus (EBV)溶解感染期にウイルスゲノム複製が、DNA損傷チェックポイント機構に与える影響を解析した。 ATMやATRはプロテインキナーゼで、DNA損傷によって活性化され下流分子をリン酸化する。EBV溶解感染を誘導した細胞では、ATMが自己リン酸化するATMのSer-1981がリン酸化され、ATM下流であるChk2のThr-68がリン酸化されていた。一方で、ATR経路の標的であるChk1のSer-345のリン酸化は認められなかった。 ATM経路はDNA二本鎖切断部位で、ヒストンH2AXのSer-139をリン酸化する。このDNA損傷部位には、Mre11-Rad50-Nbs1複合体がフォーカスを形成することが知られる。溶解感染誘導後は、ヒストンH2AXのSer-139のリン酸化が認められ、細胞核内でEBVゲノムとATMの活性型が共局在し、Nbs1やMre11がEBV複製領域上に局在した。よって、EBVゲノム複製はATM経路を活性化させる構造を持つことが推察される。 チェックポイント制御では、p53たんぱく質の安定化による蓄積が重要である。溶解感染誘導後の細胞では、p53のSer-15のリン酸化が確認されたが、p53の蓄積や、下流であるp21^<waf1/cip1>の誘導も認められなかった。また、EBV溶解感染誘導系を用いた解析から、BZLF1とp53が免疫沈降により共沈すること、EBV複製領域上にBZLF1とp53が共局在することがわかった。以上により、溶解感染期におけるATM-Chk2-p53経路によるシグナルは、BZLF1たんぱく質がp53と結合することで阻害され、EBVゲノム由来遺伝子産物の発現に有利にCDK活性が保たれるのである。
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