土壌伝染性糸状菌Fusarium oxysporumは、小型胞子、大型胞子、厚膜胞子の3種の分生(無性)胞子を形成し、これら胞子が自然界での伝染源、耐久生存器官として重要な機能を果たしている。本菌は、栄養豊富な完全培地では胞子を形成しないが、カルボキシメチルセルロース(CMC)を唯一の炭素源とする培地では、ほとんど菌糸生育せず、小型胞子と大型胞子を大量に形成する。本研究では、完全培地とCMC培地における発現遺伝子群をEST(expressed sequence tag)解析とリアルタイムRT-PCR解析によって比較し、胞子形成関連遺伝子群を網羅的に同定するとともに、それらの発現ネットワークの解明を目指す。昨年度は、栄養成長時と胞子形成時のEST解析を行い、両培地における発現遺伝子群が顕著に異なることを明らかにした。また、cDNAドットブロットディファレンシャル解析とリアルタイムRT-PCR解析によって、胞子形成時に特に高発現する53クローンを同定した。 先に当研究室では、胞子形成に不可欠な2つの転写制御因子(Ren1とFoStuA)を同定している。本年度は、EST解析によって同定した胞子形成時に特異的に発現する遺伝子群について、ΔREN1変異株とΔFoSTUA変異株における発現レベルをcDNAドットブロット解析とリアルタイムRT-PCR法によって定量解析し、Ren1とFoStuAによって発現が制御される遺伝子群をそれぞれ同定した。さらに、Ren1によって正に制御される遺伝子群のうち亜硝酸還元酵素遺伝子に着目し、形質転換系を用いた遺伝子破壊によって変異株を作出した。変異株の胞子形成様相を観察した結果、Ren1によって発現が制御される亜硝酸還元酵素は小型胞子と厚膜胞子の形成には関与しないが、大型胞子の形成に重要であることが明らかとなった。
|