今年度は、つぎの2つの成果を得た。第一は、研究の全容を示し森林水文学の分野の中に位置づけたこと、第二は、蒸散部分のモデル化を進めたことである。 前者について、日本森林学会誌に論文を発表した。この論文で、本研究で作成するモデルによって、任意の地点において、森林管理によって年間蒸発散量が何mm程度変化しうるかを評価することができるようになることを示した。より具体的に、本研究で作成するモデルが完成すれば、広葉樹林と針葉樹林は水資源的にどちらが好ましいか、などの社会的関心の高い問題に答えを与えることができるようになることを明示した。 後者について、Hydrological Processes誌に3本の論文を投稿し、2本がすでに発表され1本が発表予定となっている。これらの論文において、蒸散モデルにおけるPriestley-Taylor定数のモデル化を示した。Priestley-Taylor定数の値が、広葉樹林・針葉樹林で異なること、針葉樹林では樹高によって異なることをあらたに示した。また、このようにPriestley-Taylor定数が森林の種類によって異なるのは、表面コンダクタンスの違いによること、より詳細にいうと気孔コンダクタンスの違いによることを明らかにした。 以上に加えて、補助的な研究も行い、Agricultural and Forest Meteorology誌、Boundary-Layer Meteorology誌、日本森林学会誌に論文をそれぞれ1本ずつ発表した。これらの論文において、これまで観測例の少なかった、東南アジア熱帯多雨林の蒸散データを得ること、本研究で作成するモデルの適用可能範囲を示すことに成功した。
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