本年は当研究の初年度である。年次計画にもとづき本年は世親以前のアビダルマ仏教における認識論、および、存在論について考察をした。具体的には、主に、説一切有部の初期のテキストである『法薀足論』と南方上座部に伝持されている『ヴィバンガ』、また、所属部派ははっきりしていない『舎利弗阿毘曇論』、これら三テキストの「眼」に関する記述を比較検討し以下のことを明らかにした。 (1)いずれのテキストでも「眼」の同義語・類義語が列挙されており、それらの術語が類似しているため、「眼」をめぐる議論は部派分裂以前にまで遡ることができる。 (2)部派に分裂した当初は同義語・類義語という術語研究がアビダルマ仏教の一つ課題であった。 (3)いずれのテキストでも認識作用のない「眼」というものを設定しているが、その中で『法薀足論』等の説一切有部のテキストに説かれる「彼同分」という語は、他のテキストに比べ、人為的なものであり、この語は説一切有部の存在論の影響を強く受けて作られた術語ある。 ということである。この成果については、第55回日本印度学仏教学会学術大会にて口頭発表するとともに、『印度学仏教学研究』第53号第1巻に公表をした。 また、本研究で用いるテキストの多くは漢訳されたテキストに負っているため、必ずしも、十分な資料ではない。そこで、本年度は、カローシティー文字やブラーフミー文字等の写本・仏教美術・印度哲学・中国仏教等の関連分野にも視野を広げ、本研究に関係する情報を多面的に収集した。 さらに学会・研究会等に参加し、国内外の研究者との学術交流を積極的に行った。
|