研究概要 |
今年度は,遺跡から出土したツル科鳥類の古代DNAによる種同定を様々な時代の試料に適用して,ツル科各種の分布の変遷を復原することをテーマに研究を試みた.種同定用のプライマーは,Hasegawa et al.(1999)で発表されたツル科鳥類の塩基配列に基づき,ミトコンドリアDNAの制御領域に作成することが妥当と考えられた.分析対象とする遺跡資料の収集は,戸井貝塚(北海道戸井町・縄文時代後期),汐留遺跡(東京都港区・江戸時代),三引遺跡(石川県田鶴浜町・縄文時代前期)などについておこなった.また,近年(佐賀貝塚のみ発掘は1985年)発掘された有珠善光寺遺跡(北海道伊達市・アイヌ文化期),尻労安部遺跡(青森県東通村・縄文時代中期〜後期),日本橋蛎柄町一丁目遺跡(東京都中央区・江戸時代),本郷遺跡工学部14号館地点(東京都文京区・江戸時代),三直貝塚(千葉県君津市・縄文時代中期〜晩期),青谷上寺地遺跡(鳥取県米子市・弥生時代),佐賀貝塚(長崎県対馬市・縄文時代晩期),長崎奉行所遺跡群(長崎県長崎市・江戸時代)の各遺跡出土の鳥類遺体を同定し,三直貝塚,青谷上寺地遺跡,長崎奉行所遺跡群の3遺跡からツル科の遺体が出土していることを明らかにした.上記の3遺跡と,薩摩鹿児島藩島津家屋敷跡第二遺跡(東京都港区・江戸時代),西久保城山地区の武家屋敷跡遺跡(東京都港区・江戸時代),羽根尾遺跡(神奈川県小田原市・縄文時代前期)などの遺跡から出土したツル科遺体については資料を所蔵している各機関に借用を申請している.各資料からのDNAの抽出については,現在,保存状態の悪い資料からでも十分量のDNAを抽出できる方法を改めて模索している.安定同位体分析については,古代DNA解析によって種が判別できた資料を対象におこなう予定であったため,解析には至らなかった.
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