ジアリールエテン単結晶は熱安定性と繰り返し耐久性に優れたフォトクロミズムを示す有機結晶材料であり、次世代の有機光デバイスとして期待されている。本研究では、ジアリールエテン分子と異種機能性分子からなる混晶を作製し、通常の単一成分結晶では達成できない新規な機能を発現させることを目的としている。具体的には、ジアリールエテン分子と蛍光分子の混晶を作製することで蛍光発光の可逆的光制御の実現させ、3次元光メモリや発光表示素子などの光機能性デバイスとしての応用性について検討する。本年度は、ジアリールエテン分子と蛍光分子の合成、混晶の作製、および混晶のフォトクロミック反応と蛍光発光の挙動について検討した。 様々な化合物の組み合わせを検討した結果、結晶状態でフォトクロミズムを示すジアリールエテン分子(1)と青緑色の蛍光を発する分子(2)を混合して再結晶することで、これらが混和した混晶を作製することに成功した。370nmの紫外光を照射すると、混晶は薄黄色から緑色へと変化し、500nm以上の可視光を照射すると元の薄黄色に戻った。混晶は可逆なフォトクロミズムを示した。吸収スペクトル測定より、混晶中において1がフォトクロミック反応を示すことが明らかとなった。混晶の蛍光挙動について検討した。混晶を405nmの光で励起すると、2による青緑色の蛍光が観測された。370nm光により1を反応させると2からの蛍光強度が減少した。2から結晶中に生成した1の光反応異性体への励起エネルギー移動が起こることが示唆された。続いて、500nm以上の可視光を照射すると2の蛍光強度が完全に回復した。この蛍光強度の増減は紫外光と可視光を交互に照射することにより可逆に繰り返すことができた。 フォトクロミック分子と蛍光分子の混晶を作製することで、蛍光発光を可逆に光制御できる有機結晶材料の開発に成功した。
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