グラム陽性細菌Bacillus thuringiensisは特定の昆虫に殺虫活性を示すδ内毒素を産生する。本研究では、難防除双翅目昆虫、特にネッタイシマカおよびハマダラカ幼虫に特異的な殺虫活性を示すB. thuringiensis 96-OK-85-24株に着目し、そのδ内毒素をコードするcry遺伝子について調査した。先ず、本菌株の殺虫スペクトルと類似する既知のδ内毒素遺伝子cry4をプローブとしてサザンハイブリダイゼーションを行ったところ、EcoRIで消化した7kbsのplasmid DNA断片と強い反応が見られた。これをpBluescript SK(+)にクローニングし、全塩基配列を決定した結果、cry遺伝子の部分配列および挿入配列IS231様遺伝子を同定した。相同性解析の結果、既存のIS231遺伝子群の塩基配列とは異なっていたため、新規挿入配列IS231Iとして日本DNAデータバンク(DDBJ)に登録した。 また、上記cry遺伝子の部分配列をプローブとして、その上流領域を調査したところ、新規δ内毒素遺伝子cry24Bおよびslorf2を発見した。両遺伝子をB.thuringiensisδ内毒素非産生株に形質転換したところ、76および65kDa蛋白質の発現が認められた。さらに、これら発現蛋白質をネッタイシマカ2齢幼虫に供試したが、顕著な殺虫活性は認められなかった。以上の結果から、cry24Bおよびslorf2両遺伝子は共在するδ内毒素の安定化およびその毒素活性の増強に関わる可能性が示唆された。また、その下流に座位するIS231Iはcry遺伝子の種内伝播に関与するものと考えられる。以上の結果を第37回国際無脊椎動物病理学会および第4回生物農薬国際会議において発表し、さらに米国のCurrent Microbiology誌に投稿、受理され、掲載される予定である。
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