グラム陽性細菌Bacillus thuringiensisが産生するδ内毒素は、特定の昆虫幼虫に強い殺虫活性を示すことが知られている。この特性を利用したB.thuringiensis微生物農薬は、農業・衛生害虫の防除に世界中で利用され、大きな成果を挙げている。2000年に沖縄県の土壌から分離されたB.thuringiensis serovar sotto沖縄株は、難防除衛生害虫であるネッタイシマカ幼虫に強い殺虫性を示す。本研究では、この沖縄株に着目し、そのδ内毒素をコードするcry遺伝子のクローニングと全塩基配列の決定を行った。 沖縄株の産生するParasporal inclusionを精製、可溶化し、イオン交換クロマトグラフィーを行った。その結果、5つの溶出ピークが確認され、各画分をネッタイシマカ2齢幼虫に供試したところ、第一ピークにあたる非吸着画分にのみ殺虫活性が認められた。この画分をSDS-PAGEで解析すると、66-kDaおよび62-kDaにあたる2種の蛋白質が含まれていることがわかった。それぞれのN末端アミノ酸配列を解析したところ、66-kDa蛋白質のそれは双翅目殺虫蛋白質として知られるCry4Aのそれと60%の相同性を示し、毒素活性の本体を担う可能性が認められた。 この66-kDa蛋白質のN末端配列および双翅目殺虫性Cryタンパク質の保存領域であるBlock3の配列をもとにプライマーを作製し、degenerate PCRを行った結果、200bpsの増幅産物が認められ、その塩基配列は既存のデータベースに存在しなかった。この増幅産物をプローブDNAとして、沖縄株のplasmid DNAに対してサザン解析したところ、ClaI切断した7.2kbs断片と強い反応が認められた。この7.2kbs ClaI断片をpBluescript SK II(+)にクローニングし、全塩基配列を決定した結果、2.1kbsのcry遺伝子が座乗しており、その配列は既存のcry遺伝子のそれとは異なる新規性の高いものであった。
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