金は資源として重要でありながら、一般の岩石にはppbまたはサブppbオーダーでしか存在しないため、一般の岩石中の金の存在濃度についての報告は少ない。また、金鉱床の形成には比較的金を多く含む堆積岩が寄与した可能性が考えられるが、このことについて詳細に調べられた研究はほとんどないのが現状である。 本研究では、マイクロウェーブによる堆積岩試料中の有機物の完全分解、溶媒抽出法とを行った後、誘導結合プラズマ質量分析装置(ICP-MS)によって高精度で定量する方法を行った。金濃度の分析には、菱刈金鉱床の基盤岩である白亜系の四万十累層群の砂岩と頁岩を試料として用いた。菱刈金鉱床を胚胎するこれらの堆積岩の中で、熱水変質を受けた堆積岩と熱水変質を受けてない堆積岩の金濃度を分析した。また、九州南部と四国に分布する未変質の堆積岩の金濃度を分析した。 堆積岩中の有機物をマイクロウェーブで分解することによって、試料を溶液化することが可能となり、有機物中に存在している金も回収できることが分かった。分析誤差は0.01ppbオーダーであり、既報の金濃度の分析値と比較してみても高精度であることが分かった。以上のことからこの実験手法から得られるデータが十分に信頼性があることが確認された。また、堆積岩中の金がS、Cu、Asといった特定の元素と正の相関関係を持っていることが分かった。この結果は堆積物または堆積岩中における金の存在形態を示唆するものである。四万十累層群の未変質の試料のいくつかは一般の堆積岩よりも高い金濃度を示した。特に、頁岩の金濃度は砂岩に比べて明らかに高い値を示した。したがって、菱刈鉱床の基盤岩である四万十累層群が金に富んでおり、本研究によって鉱床に大量の金をもたらした可能性が示唆されたといえる。
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