菱刈金鉱床の基盤岩をなす四万十累層群から熱水によって金が溶出した可能性を調べるために、南九州、西部四国に分布する四万十累層群の砂岩・頁岩の微量金含有量をICP-MSを用いて測定した。その結果、四万十累層群の金含有量は、黄鉄鉱に富む試料以外では他の堆積岩と有意な差はなかった。標高-550から-760mにおいて熱水によって若干変質した砂岩の金含有量は未変質の値と一致しており、その深度において熱水によって砂岩中の金が溶出や移動してないことが示唆された。未変質または若干変質した四万十累層群の多くは数ppb以下の金を含有しているが、金の鉱化作用に関係した熱水によって10ppb以上になることがある。金の鉱化作用に関係した堆積岩だけでなく、鉱化作用に関係してない堆積岩についても高い金含有量を示すことがある。金とヒ素の間に正の相関関係が見られるため、これらの高い金含有量はヒ素を含む黄鉄鉱中の微量金に由来していると考えられる。 菱刈鉱床の含金石英脈中において、金の探査の指標となる脈石鉱物やその組織と金との関係を調べた。金鉱石の形成に必要な熱水の沸騰を示す鉱物として葉片状方解石、石英が鉱床の浅部から深部にかけて普遍的に見られる。熱水の沸騰を示すと言われるトラスコッタイトは鉱床浅部には見られるが深部ではまれである。疑似針状方解石、石英は浅部・深部において普通に見られるが、これらはトラスコッタイトを置換して生成されたものである可能性が高い。以上の観察結果から、熱水の沸騰現象は鉱床浅部から深部にかけて普遍的に起こっていたと考えられる。また、細粒の石英±細粒の氷長石±スメクタイトの鉱物組み合わせは一般的に金に富んでいることが多く、鉱床の浅部・深部で普通に観察される。このことから、菱刈鉱床では熱水の沸騰現象だけではなく、石英・氷長石・スメクタイトの石英脈の形成が大量の金の沈殿に関与したことが分かった。
|