石英脈試料について顕微鏡観察を行い、脈石鉱物の種類や組織と金との関連性を検討した。その結果、石英±氷長石±粘土鉱物の鉱物組み合わせの場合、頻繁に金を伴っていることを明らかにした。また鉱物中に様々な気液比の二相流体包有物が共存することから、熱水の沸騰が金の大規模な沈殿と密接に関係することを示唆した。また、細粒で粒状の石英およびモザイク状の石英が金をしばしば伴うことを示した。 特定の石英脈と鉱床全体において、裂かの形成と引き続き起こる鉱化作用の時期について検討した。代表的な高品位石英脈として左右対称な縞状構造を持つ芳泉1脈を選び、鉱脈の深部と浅部におけるそれぞれの縞の年代を^<40>Ar/^<39>Ar法によって求めた。全ての試料から精度の高いプラトー年代が得られ、相対年代誤差は3%以下であった。年代データの解析結果から、過剰^<40>Arがプラトー年代に影響を与えてないことを明らかにした。また、初期に形成された縞はそれ以降の熱水活動によって繰り返し熱的影響を受けているはずであるが、得られた年代スペクトラムからは熱的なオーバープリントがプラトー年代に影響を与えてないことが明らかになった。それぞれの縞の年代から、裂かは初めに深部で形成され、数万年後に浅部に到達したこと、そして、3〜11万年の間隔をおいて断続的に石英脈が形成されたことを解明した。 氷長石中の流体包有物の均質化温度は時間と共に有意に変化することはなく、氷長石-石英脈に関連した金の鉱化温度は鉱化初期から後期まで大きく変わらなかった。一方で、石英脈の金品位は鉱化時期によって大きく変動していた。金品位と脈幅のデータに加え、1.01〜0.88Maに年代が集中していることを考慮し、極めて短期間に菱刈鉱床の主要な鉱化作用が起こったことを明らかにした。
|