まず、耐塩性乳酸菌Tetragenococcus halophilusが保持する分子シャペロンClpBについてその詳細な構造と機能を解析した。大腸菌で合成し、精製した組み換え体ClpBのオリゴマー構造をゲルろ過クロマトグラフィー、化学架橋、走査電顕により解析したところ、ATP、ADP、ATPγS(ATP加水分解アナログ)などのヌクレオチド存在下でリング状の6量体を形成した。しかし、AMP、GTP、TTP、CTP存在下ではヌクレオチド非存在下と同様、6量体ではなく2量体と単量体を形成した。続いて、ClpBの構造変換に伴うシャペロン機能の変化について解析した。その結果より、ClpBはストレス条件下では2量体や単量体として存在しており、ATP非依存的に基質タンパクの変性や凝集を抑制すること、さらにストレス後は、ATP依存的に6量体リング構造を形成し、凝集タンパク質の再生を担うというClpBの機能・構造変換に関する新たな知見を得た。 次に、T.halophilus DnaK system(DnaK-DnaJ-GrpE)共発現プラスミドを構築し、大腸菌dnaK欠損株へ導入し、その協調的な機能をin vivoにおいて解析した。dnaKのみを発現させた場合、熱ストレス条件下においては大腸菌DnaKの機能を相補できないこと、塩ストレス条件下では耐塩性を向上させることが明らかとなった。しかしながら、補因子であるdnaJやgrpEを共発現させても更なるストレス耐性の向上は見られなかった。また、精製タンパク質を用いたATPase活性の測定結果からも、T.halophilus DnaK systemの協調性は認められなかった。これらの結果より、T.halophilus DnaKは大腸菌DnaKとは異なる機構で機能することが示唆された。
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