研究概要 |
昨年度までの研究により芳香族ニトロ化合物の分解は低窒素源濃度にて促進されることが示された。つまり、各培養条件における担子菌の細胞応答機構の解明は、実プロセスに向けて重要な基礎データの獲得につながると考えられた。 Phanerochaete chrysosporiumをKirk液体培地(HCHN;28mMグルコース,24mM,N,HCLN;28mMグルコース,2.4mM,N)にて培養した。N源として、酒石酸アンモニウム等(計5種)を用いた。各条件下で4日間培養後、調製した細胞外タンパク質を二次元電気泳動に供したところ、発現パターンが大きく異なった。MALDI-TOF-MS解析で得たペプチドフィンガープリントを用いて、P.chrysosporium in silico protein databaseに対してMASCOT検索することでタンパク質を同定した。LN下では、マンガンペルオキシダーゼ、リグニンペルオキシダーゼや細胞外過酸化水素供給系と考えられているglyoxal oxidase、aryl-alcohol oxidase等が同定された。またN源によらず、全てのLN条件下にてリグニン分解酵素の誘導が確認された。HN下では、有機酸およびアミノ酸代謝に関わる酵素や糖質代謝関連酵素等、LNでは発現していないスポットが数多く検出された。HN下で共通して発現量の高いスポットとしてendo-β-1,3(4)-glucanase、exo-β-1,3-glucanaseが同定された。担子菌細胞壁および細胞外マトリックスはβ-1,3-glucanを主成分とするため、これらの酵素は細胞外マトリックス(グルカン層)の代謝に関わったと予想された。 一方で、細胞内タンパク質のプロテオーム解析により、LNとHN条件間で代謝システムが大きく異なることが判明した。LN条件下では、窒素源の再利用や窒素同化に関わる酵素が数多く誘導された。さらに、1,4-benzoquinone reductaseに代表される芳香族化合物代謝酵素、解糖系、TCA回路およびペントースリン酸回路に関わる酵素の多くがLN条件下にて発現誘導を受けた。つまり、P.chrysosporiumはLN条件(リグニン分解条件)において、リグニン分解酵素だけでなく、リグニン分解産物である芳香族化合物の代謝に適した代謝システムを活性化させることで、効率的にリグニン分解を行うことが明らかになった。
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