研究概要 |
神経軸索の投射を制御する分子は軸索ガイダンス分子と呼ばれる.軸索ガイダンス分子の多くは,軸索の特定の領域に限局して分布し,その分布様式はショウジョウバエからマウスまで生物種を超えて保存されている.しかし,分子を軸索の一部の領域に局在化させるメカニズムは未知である.本研究では,1回膜貫通型の軸索ガイダンス分子であり生体内で軸索の先端部分に局在化するRoboファミリー受容体(Robo,Robo2,Robo3)に着目し,軸索内局在のメカニズムに関して以下の点を明らかにした. 1.神経細胞は自律的に分子の軸索内局在を形成する能力を持っている ショウジョウバエの初代培養系を用いることにより,他の細胞との接触のない条件下で神経細胞を成長させ,軸索内でのRoboファミリー受容体の分布を観察した.その結果,Roboは培養条件下では軸索全体に均一に分布したが,同じファミリーに属するRobo2とRobo3は,培養条件下でも軸索の遠位端に局在した.このことは,神経細胞が自律的に軸索内に分子の局在を形成する能力を有していることを示している. 2.分子の局在化は軸索の伸張と共役していない 生きた神経細胞中で局在の形成過程を経時的に観察したところ,分子の局在が軸索の伸張後に起こることが明らかとなった.つまり,分子の供給が軸索の伸張と共に起こるという従来のモデルとは異なり,分子は軸索が伸張した後に軸索の特定の領域を標的として供給されている可能性がある. 3.軸索は拡散障壁によって区画化されている Fluorescence Recovery After Photobleaching(FARP)法を用いて軸索膜上でのRobo分子の動態を検証したところ,Robo分子は軸索上で拡散運動をしているが,軸索の特定の場所にRoboの拡散を妨げる障壁があることが判明した.つまり,拡散障壁によって軸索内は区画化されており,それぞれの区画が軸索内での分子の局在パターンを形成・維持していると考えられる.
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