大脳皮質では興奮性シナプスの多くはスパイン上に形成され、そのスパイン構造は多様である。近年スパイン頭部体積の大きさに依存して、グルタミン酸受容体の発現量が決まること、長期増強に際してスパインの頭部増大が起きることなどが示されている。スパインにはアクチン繊維(F-actin)以外の細胞骨格タンパク質はほとんど存在せず、主要な細胞骨格だと考えられている。そこでPA-GFPとβ-actinが融合した遺伝子を作製し、海馬組織切片に遺伝子銃で導入し、CA1錐体細胞の単一スパインに存在するアクチン分子の動態を、2光子励起顕微鏡を用いて蛍光観察した。まず、光活性化前後のPAGFP-actinの蛍光像より全アクチン分子の濃度比、及び拡散速度の違いからF/G-actin存在割合を求めた。その結果スパインのアクチン総量を100とすると、F-actin量が樹状突起:スパイン=5:88と表わされた。さらにスパインのF-actinの性質を調べると、蛍光強度減衰時間よりF-actinには動的及び安定的な性質を持つ2種類のプールが存在し、その減衰時定数は1.2分及び17分であった。安定的なF-actinプールはスパイン基底部に存在し、動的なプールはそれ以外の領域に存在していた。安定的なプールはスパイン体積に比例して存在比率が増し、存在量はスパイン体積の2乗に比例した。大きなスパインのF-actinは小さいスパインより全体として安定であると判明した。一方、動的なF-actinはスパイン先端部から基底部に向けて流れており、その速さは0.2-1.2μm/分、流れの長さは0.2-0.7μmであった。さらにスパイン体積が大きいほど流れは速く、かつ長さも長いことがわかった。大きなスパイン程、F-actinは大きな力でスパインを膨張させる、即ちスパイン体積はアクチン重合の速さで決まることを示唆した。
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