本年度は、「ヌナブト準州民」というアイデンティティが、ヌナブト準州の教育政策においてどのように扱われているか(もしくは扱われていないのか)、また、それは、イヌイットとしてのアイデンティティとどのように重なりあうのか(または重なり合わないのか)、という点について検討にすることを試みた。 本年度では、前者については、教育政策関連資料の中で「ヌナブト準州民」という用語がどのように扱われているかについて注目し、その扱われ方について分析を進めた。また、後者については教育政策におけるイヌイットの文化や価値の位置づけを明らかにすることにより明らかにすることを試みた。具体的には、言語教育政策関連資料と現在策定過程にある新カリキュラム草案に関する資料を中心として分析を進めた。 前者の「ヌナブト準州民」という用語の教育政策文書における扱われ方については、新カリキュラム草案において、それが非先住民を対象としているということを前提としていることから、「ヌナブト準州民」が身に付けるべき資質などが提示されている。しかし、その一方では、その構造や内容は、イヌイットの文化や価値を非常に重視しているものとなっていた。後者については、現在の教育政策において、イヌイットの文化はその重要な要素として位置づけられており、それは、中等後教育段階においてもイヌイットの文化を専門的に教授するための学校やプログラムの設置がなされてきているなどの新たな動向からも明らかとなった。 このように、「ヌナブト準州民」という用語が頻繁に使用されているものの、それがイヌイットの文化や価値からかけ離れたものではなく、むしろ、それが大きな範囲を占めているのではないかという考察に至った。
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