アルツハイマー病(AD)脳における病理学的特徴は、細胞外βアミロイドタンパク質(Aβ)が線維状に異常蓄積することにより形成される老人斑の出現、異常にリン酸化されたタウタンパク質が神経細胞内に蓄積した神経原線維変化の形成および神経細胞死である。現在では、脳内での異常なAβ蓄積が神経原線維変化を含む神経障害を引き起こすというアミロイド仮説がAD発症メカニズムの有力な候補として考えられている。一方、グリア細胞は老人斑に集積しAβを貪食・分解する可能性が示唆されている。 16年度実施した研究では、AD脳で発現量が増加し、老人斑においてAβと共存していたhigh mobility group box protein-1(HMGB1)が、ミクログリアのAβ貪食機能の抑制やAβ神経毒性の増大によりADにおける増悪因子として作用する可能性を見出し論文発表した。本年度はこの研究成果については学会発表を中心に研究活動を実施した。 17年度は引き続きミクログリアの機能と神経障害との関連性に注目し、in vivo脳におけるミクログリアの神経障害に対するより直接的な役割を検討するため、神経変性疾患モデルラット脳へのミクログリア移植を行った。その結果、脳梗塞モデルラットの脳室内に同じ系統のラット胎児から調製したミクログリアを移植すると虚血性神経細胞死の抑制および運動機能障害の改善することが明らかとなった。このミクログリアの神経保護作用にはグリア細胞由来と考えられる神経栄養因子が関与していることが示唆された。このように、脳神経変性疾患における、ミクログリアのより直接的な神経保護機能さらには移植の有用性が推定された。
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