理論的研究 集合レベルの公平知覚がなぜ生じると考えることができるかについての理論的背景を検討した。はじめに人々が組織における自分の集団や組織の取り扱われ方に関心を抱く存在と見なすことができるのかという点について検討が加えられた。その結果、社会的同一性理論、友愛的剥奪理論、相互依存的自己観などの心理学的・社会学的概念が、集団単位の処遇の考察に示唆を与える理論であると明らかになった。これらの理論は、自分の集団への取り扱われ方が個人の態度や行動に影響を及ぼす要因であることを強調している。これは人々が、集合レベルの公正さに対して関心を持つ存在であることをうかがわせる考え方である。次に、集合レベルの公正知覚を概念化するためには集団内やチーム内において皆の知覚が共有化されている前提が必要となるが、それについての理論的基盤を検討した。誘引-選抜-消耗モデル、社会化モデルによって、時間の経過に伴ってチーム内の知覚が収斂する傾向が明確にされた。また、社会的情報処理理論、代理公正、感染公正の諸理論は、人々が集団内他者の知覚を参考にして公正さを判断している傾向を明らかにしている。これらの視点は、公平知覚がチームや集団内で共有化されることを示唆する。こういった観点から集合的公平知覚を概念化することの妥当性は、理論的には支持されると思われる。 実証的研究 本研究員は、受入研究者の援助を受け、質問紙調査を2回実施した。第一の調査は、製造業に勤務する従業員の約400人が対象であった。この調査の結果の一部は、経営行動科学学会にて発表された。分析の結果は、公正さは職場内の協力的雰囲気を媒介してストレス反応を低減することが明らかにされた。第二の調査は、自動車部品工場に勤務する約400人を対象とした調査である。本調査はイリノイ大学の心理学部のグループと共同研究の形式で実施されており、現在、異文化間比較ができるように準備を進めている。
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