ルートビッヒ・マクシミリアン大学(ミュンヘン)において前年度から引き続き行っている光ファイバと小型レンズを用いた原子検出器の研究においては、回折格子や干渉フィルタを駆使することにより、主に原子トラップ用の波長830nmのレーザが蛍光検出器であるアバランシェフォトダイオードに入射することにより発生するノイズを抑制しつつ、信号となる原子からの蛍光(波長780nm)を効率よく観測する光学系を構築した。信号対ノイズ比は8.8になると見積もられる。また、原子を観測領域に送り込むために必要なマイクロチップの作製や真空装置の構築もすでに完了した。実際の原子検出実験は来年度行う予定である。 8月に慶應義塾大学に戻ってきてからは、ナノサイズの金粒子近傍に励起されるプラズモンを人工原子とも呼ばれる半導体量子ドットに結合させる実験を進めた。これは将来的に原子堆積によって作製されるナノ構造物の分光測定の予備実験となるだけでなく、量子情報処理などに不可欠なもつれ合い光子対の生成にもつながる極めて新規かつ興味深い実験である。また、原子とプラズモンとの結合を視野に入れており、将来的にナノの精度での原子操作を応用した非常に面白く重要な研究になると期待される。これまでに、有限差分時間領域法(FDTD)を用いたシミュレーションから、ガリウム砒素基板の表面上に置かれた長軸方向200nmで短軸方向100nmの金のロッド近傍からのプラズモンによって、半導体量子ドットの位置する表面から20nmの深さにおいて電場強度が8倍に増強されることを見積もった。また、半導体量子ドットの基板上に直径の平均が100nmの金粒子をばら撒くことに成功した。励起光の偏光方向に対する散乱光強度の依存性から、所望のロッド形状の金粒子も基板上に多数散りばめられていることが分かった。
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