本年度は、4月初旬よりベイルート、ダマスカス、アレッポのフィールド調査を開始した。主にアレッポ大学の伝統科学研究所・学術交流日本センターに客員研究員として滞在し、上記3都市のフィールドワークを実施した。更に、年度末の3月にはモロッコの旧都フェス、アルジェリアの首都アルジェでフィールドワークを実施した。 具体的には、19世紀以前における、いわゆる旧市街の歴史的な成り立ちを解明し、次いで20世紀におけるフランス領(保護領・委任統治領・植民地)時代のフランス近代都市計画の実績を評価し、更に現在において実施される保全・再生事業の課題を展望したものである。異なる宗教、文化、言語に属する入々の共存と相克のあり方を都市空間の成り立ちから考察した。 調査から得られた知見は膨大かつ多彩であり、本年度はPD研究であることも踏まえ、学術論文のような明確な研究実績としてはまとめなかった。ただし、本研究の下位テーマの一つである、日本の建築家番匠谷尭二(1928-1999)については短期集中的に情報を集め、60年代に現代イスラーム都市の保全と近代化に携わった番匠谷の生涯と、その都市計画上の業績についてエッセイ風にまとめ、今後の目標イメージを描いた。発表媒体は、NPO法人アジア太平洋資料センターの雑誌「月刊オルタ」、及び、独立行政法人国際協力機構(JICA)シリア事務所の広報誌「アハバール・カシオン」の2誌であり、一方は市民主導の草の根団体、一方は我が国ODAの主要実施機関という、国際協力をめぐる両極を跨いでの執筆となった。 これに加えて、モロッコの旧都フェスをテーマとした筆者の博士論文は5月に日本都市計画学会論文奨励賞を受賞し、単著の学術書として出版のお話を頂いた。幸いに平成19年度の科研費研究成果公開費(学術図書)での助成も獲得し、出版に向けて更なる読み易さに磨きをかけているところである。
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