神経幹細胞は自己複製能と多分化能を有し、発生過程において複雑な中枢神経系を構築する基盤を担う。また近年の報告によって成体脳にも神経幹細胞が存在し続け、特定の脳領域に新生細胞を供給し続けることが明らかとなり、神経性疾患に対する再生医療への応用が大きく期待されている。その一方、成体脳における神経細胞新生過程の基礎的研究は立ち後れているのが現状である。本研究では今年度、以下の結果を得た。 1.昨年度に引き続き神経幹細胞に強く発現する遺伝子tincarの解析を行った。Tincarと類似する発現パターンを有する複数の遺伝子の機能欠失変異体との交配を行い、tincarの発現パターンを制御する因子を探索した。 2.神経幹細胞のアドヘレンスジャンクションに強く発現する遺伝子cnoのショウジョウバエニューロブラストにおける機能解析を行った。この結果Cno遺伝子は神経幹細胞の増殖を正に制御することが示唆された。 3.さらに神経幹細胞から新生神経細胞が産生される過程で神経細胞移動を制御する因子を探索し、神経系で広範に発現するリン酸化酵素cdk5の機能に着目した。この機能欠失変異体を用いて、マウス成体脳における機能を解析した。この結果、cdk5が新生神経細胞の正常な移動を制御することを明らかにした。また野生型組織とcdk5を欠失した変異型組織を組み合わせた培養実験を行い、cdk5の機能が新生神経細胞において細胞自動性に必要であることを明らかにした。
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