今年度は、自然言語の体系的意味論の一般的枠組みを構築するための基礎的研究を行った。今年度の補助金は、主に、研究を遂行するための文献の購入費、および、学会での調査活動のための旅費に当てられた。 1.自然言語の量化表現と複数表現の形式的扱いを、哲学・論理学・言語学の文献を精査することで検討した。量化表現に関しては、近年の証明論の発展と結びついた型論理文法の手法が有効であり、複数表現に関しては、これまで注目されてこなかった複数論理の手法が有効であることを確認した。また、初期分析哲学の文献の精読を通して、フレーゲの文形成の理論およびラッセルの量化の理論から、型論理文法と複数論理に対して新たな視点が得られることを確認した。これらの知見を具体的な言語分析に適用するための足がかりとして、日本語の疑問形の量化表現に注目し、疑問表現と量化表現を統一的に扱う合成的分析を与えることを試み、その成果を意味論研究会において発表した。なお、この研究の遂行に当たって、補助金を用いて、多数の関連文献を購入するとともに、国際学会(ESSLLII2004)に参加し、型論理文法を中心とする最新の研究成果の理解を深めた。 2.自然言語の顕著な特性である文脈依存性の問題を、関連性理論の枠組みに基づいて検討した。とりわけ、これまで文脈依存性の観点からあまり研究されることのなかった日本語・英語のコピュラ文に注目し、コピュラ文における述語名詞に対しては、文脈に応じた意味解釈の変化がきわめて制限されていることを発見した。この研究成果については、来年度の国際語用論学会での研究発表を受理され、その準備として、意味論と語用論の相互関係を再検討する作業を進めている。なお、この研究の遂行に当たって、補助金を用いて、多数の関連文献を購入するとともに、言語哲学の最新の研究を吸収するため、日本科学哲学会に参加した。
|