研究概要 |
当研究室では通常は強力なルイス酸触媒として期待されることのないコバルト化合物のうちカチオン性ケトイミナトコバルト(III)錯体が,不斉ヘテロDiels-Alder反応や不斉カルボニル-エン反応の他にも強い電子供与性のニトロンの共存条件で効果的にルイス酸触媒として機能することを報告している。さらに,ルイス塩基存在下でもルイス酸触媒として作用する特性を活用し,不斉ニトロアルドール反応や二酸化炭素の触媒的不斉固定化にも有効であることを示した。 そこで、カチオン性ケトイミナトコバルト錯体の特異的なルイス酸触媒機能を,ヘテロDiels-Alder反応をモデルとした理論解析により明らかにすることを試みた。解析は,モデル基質としてホルムアルデヒドとブタジエンを採用し,密度汎関数法(B3LYP/6-311G^<**>)により行った。 解析の結果、反応の原系は3重項であるのに対し、基質のアルデヒドがルイス塩基としてコバルト錯体の両アキシャル位を占めた遷移状態は1重項であることがわかった。すなわち、アルデヒドの配位によりコバルトのd_<z^2>軌道上のスピン電子がd_<x^2-y^2>軌道に移動するため、コバルト錯体のルイス酸性が向上しd_<z^2>軌道に対するアルデヒドの配位が強固になる。こうして、原系のアルデヒド酸素とコバルト原子間の距離が2.26Åであるのに対して、遷移状態では1.88Åに短くなることがわかった。キラルな錯体触媒の反応では結果としてキラル配位子の影響を受けやすくなり不斉収率が向上することが期待される。生成系では再び3重項が安定であり、コバルトへの配位距離は2.29Åに伸び、基質のホルムアルデヒドと配位子交換が容易になり、触媒サイクルが完成される。このように、1重項と3重項の間で容易にスピン交換しやすいことがコバルト(III)錯体の特徴的なルイス酸触媒機能をもたらしたと解釈した。
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