ヘテロDiels-Alder反応では、ルイス酸性の極めて弱いコバルト錯体がなぜか高い触媒活性を示します。この理由を明らかにするため機構解析を行い、ルイス塩基であるアルデヒドが軸に配位することで、コバルトの電子状態が3重項から1重項に変化するため、コバルトのルイス酸性が異常に高まり、効率的な触媒として作用するという新しいメカニズムを明らかにしました。 また、コバルト錯体を触媒とする不斉ボロヒドリド還元反応では、環境負荷が指摘されているクロロホルム中でのみ高いエナンチオ選択的を発現することが、問題視されていました。例えばクロロホルム中では91%eeで進行する反応が、THF中では6%eeまで低下します。密度汎関数法による機構解析と分光測定による中間体の同定から、クロロホルムは単に溶媒として作用するのではなく、真の触媒活性種の(ジクロロメチル)コバルト錯体の生成に不可欠であることを明らかにした。すなわち、同様の構造を有するカルベン錯体が触媒能を有するはずであるという反応設計を提案した。実際に、ジアゾ酢酸エステルからコバルトカルベン錯体を調製し、ケトンの不斉還元触媒への適用を試みたところ、高エナンチオ選択的に対応する光学活性2級アルコールが得られ、脱ハロゲン化の反応設計に指針を示した。従来、理論解析は実験結果の現象説明になりがちであったが、今回、理論解析の結果に基づく合成反応の開発に新しい可能性を提示した。
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