遺伝子治療、抗癌剤による化学療法、RNAiに代表される核酸医薬など、ドラッグデリバリーシステム(DDS)を必要とする先端医療技術は多い。しかし、現状ではすべてに適用可能なDDSはなく、多くの研究者がDDSキャリアの開発を行っている。本研究課題では、ヒト肝臓に対して高い特異性と親和性を有するB型肝炎ウイルス表面抗原(HBsAg)粒子を基とした中空バイオナノ粒子を生体内でピンポイントに遺伝子及び抗癌剤などの薬剤を送達しうるDDSキャリアとして開発することを目的としている。これまで、緑色蛍光タンパク質(GFP)発現遺伝子並びに蛍光性低分子化合物をレポーターとしたin vitro、in vivo送達実験に成功している。また、実験動物レベルではあるが、血友病Bの治療遺伝子である血液凝固第9因子(FIX)発現遺伝子とバイオナノ粒子による遺伝子治療のモデル実験に成功している。 本年度は、今年度は、FIX発現遺伝子を封入したバイオナノ粒子を各種経路から投与し、マウス血中での発現レベルの解析を行った。その結果、尾静脈よりバイオナノ粒子を投与する場合がもっとも治療効果がよいことが判明した。しかし、発現レベルの飛躍的向上は達成できなかった。その原因はバイオナノ粒子への発現遺伝子の封入効率にあると考え、現在、封入効率向上を実現する手法を見出すための検討を行っている。また、DDSのモデル実験として、肝癌に対して効果のある抗癌剤をバイオナノ粒子内部へ封入、in vitroにてヒト肝癌由来細胞へ投与し、抗癌効果の検討を行った。ところが、従来の手法では封入過程において抗癌剤の活性低下が見られたことから、抗癌剤を封入するために適した手法の確立を目指し、現在検討中である。
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