研究概要 |
平成17年度の研究において,以下の2つの課題に取り組んだ. 第一に,政府による公共サービス供給のための財源調達方法と経済成長,社会厚生との関係を明らかにした.Barro(1990)をはじめ多くの既存研究は「政府が所得税のみによって財源を賄う」と仮定しているが,現実には多くの国の政府が国債によって財源を賄っている.従って,既存研究における仮定がその結論にどの程度影響しているかは当然吟味されなければならない.この動機に基づいて分析を行った結果,政府が所得税だけではなく国債発行によっても財源を賄い,かつ国債発行残高を長期的には物的資本のある一定割合に収めるようなある種の財政安定化政策をとった場合,経済に「高い成長率,厚生をもたらす定常状態」と「低い成長率,厚生をもたらす定常状態」という2つの定常状態が発生することが示された.また,政府が所得税率を引き上げる場合と,国債発行を増加させる場合とでは,経済成長率に与える影響が大きく異なることが明らかにされた.尚,この研究結果を本年度の日本経済学会春季大会(於:京都産業大学)及び大阪府立大学のセミナーにて報告したうえで海外の学術雑誌に投稿した. 第二に,2国2財2要素のヘクシャー・オリーンタイプの貿易モデルを内生成長モデルのフレームワークに取り込んだうえで,経済援助と経済成長,社会厚生の関係を分析した.結果として,経済援助が両国の成長率,厚生をともに引き上げる可能性があることが明らかとなり,またそのための条件が明示的に導出された. また,本年度の論文執筆に関しては,上記以外に研究課題に関わる3本の論文の改訂作業を行い,それらを海外の学術雑誌に投稿した.
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