1.市場関係訴訟資料の研究 本年度は上記の研究課題に対して、市町の権利形態や市場管理システムは市場関係訴訟資料において最も明示的に示されるという立場から訴訟資料の分類・整理を進めた。その結果、市場関係訴訟資料を(1)訴状、(2)返答書、(3)済口証文、(4)議定、(5)絵図、(6)その他、という形に分類した。本年度も下記の現地調査を中心に引き続き訴訟資料を収集し、10月以降はその整理を行った。 2.市場争論絵図と市町における絵図作成の契機 こうした市場関係訴訟資料のなかで、本年度は特に絵図に注目した。市場争論は(1)複数市町間の争論、(2)単一市町内の争論、とに大別できるが、絵図は(2)の争論に特徴的にみられる資料である。本年度はこれらの市場争論関係絵図について、作成目的と表現内容との関係を比較検討した。この検討のなかで、市場争論が在方市町で絵図が作成される契機として重要という見通しが得られた。この見地から、武州小川を例に江戸時代の在方市町における絵図作成の契機を分析した。その成果の一端は11月13日(土)の人文地理学会大会で発表した。小川は、一本街村規模の在方市町としては珍しい、7点もの町場を描いた江戸時代の絵図を伝えるが、その7点中6点が争論と関係して作成されたものである。争論の内容は(1)町内の市場争論、(2)隣接する大塚村との境争論、の2つに大別できる。小川を例に行った分析は、市場争論絵図を町絵図全体の中で位置づけようとする試みでもある。 3.中山道宿場町における定期市 本年度の研究計画では、中山道宿場町における定期市に注目し、宿駅機能と定期市との関係を追及することを述べた。本年度の調査ではこの計画と関連し、武州熊谷宿および上州安中宿の市場関係資料を中心に収集、分析を進めた。
|