1.分配的正義の理論的研究 a.多くの文献を読むことで、公正という観点から、いかなる社会的・経済的資源によって個々人の立場を捉えればよいかを探究した。その結果、資源が「いかに分配されるか」という、資源配分の手続きに関わる観点に加えて、資源が「どのように分配されているか」という、資源配分の様態に関わる観点の重要性を明らかになった。資源配分の手続きに関わる観点は、資源配分の様態に関わる論点と密接に関連しながら存在している。これらを峻別した上て統合する必要性を明らかにした。 b.上記の点はより一般的、抽象的な探究である。当研究は一方で、分配的正義の研究を、階級・階層という具体的事象からはじめ、それから個々人の生活全般領域へ対象を拡大することを目指すものである。よってまず、階級・階層と深いかかわりのある、労働や仕事といった領域において、公正という観点から、個々人の状況を捉える上で、いかなる資源に注目すれはよいかを探究した。その結果、これまで注目されてきた所得や威信、学歴水凖という資源に加えて、仕事の遂行形態をより直接的に表す「職業上の自己指令性」という概念に注目するに至った。この概念に注目することは、ある階級・階層に占める個々人の生活状税を、従来の地位指標より実態的に把握することを可能とする。この概念の有用性の検討を行った。 2.分配的正義の実証的研究 上記1-bで注目するに至った「職業上の自己指令性」が、日本社会において、実際にいかに分布しているかを探究した。特に、従来の地位指標とどのように結びついて分布しているかに焦点を当てた。その結果、「職業上の自己指令性」は地位指標としても妥当性を持つ指標であり、総合的な不平等指標を作成する一つの中心的要素となりうることが判明した。
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