触媒機能を有するタンパク質である酵素の反応活性部位は、分子レベルで精密に構築された反応場を提供しており、基質との多点相互作用を通じて高効率かつ高選択的な化学反応の遂行を実現している。このようなタンパク質固有の反応場は触媒設計のテンプレートとして非常に魅力的である。 タンパク質に金属錯体を導入した人工金属タンパクは、タンパク質の構築する反応場と金属錯体固有の触媒機能を兼ね備えた人工酵素になると期待される。このような人工酵素を構築するためにはテンプレートとなるタンパク質の任意の部位に必要とされる触媒機能を有する金属錯体を導入する必要がある。そこで、我々はタンパク質に種々の金属錯体を組み込むことを目的として金属錯体が側鎖に共有結合した金属結合型アミノ酸の開発を行っている。このような金属結合型アミノ酸を用いてタンパク質のデノボデザインを行えば、アミノ酸配列単位で特定の部位に金属錯体を導入した人工金属タンパクを構築できると考えられる。 今回、種々の遷移金属と錯形成し、ペプチド合成で用いられる酸や塩基による処理に対して安定な錯体を与えるベンズアルジミシ配位子に着目して新規な金属結合型アミノ酸の開発を行った。その結果、グルタミン酸側鎖にベンズアルジミン白金錯体が共有結合した白金結合型アミノ酸を合成することに成功した。合成した白金結合型アミノ酸は側鎖白金錯体が主鎖部位の水素結合を阻害しないため、通常のアミノ酸と同様にタンパクの立体構造を構築することができると考えられる。
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