集積型金属化合物は精密に制御されたナノ構造に基づく物性を示すことから次世代の機能性材料として注目されており、これまでに自己組織化法を用いて多くの成功が収められている。我々は生体分子であるペプチドの超分子構造を利用して金属を集積化する新たな手法の開発を目的として研究を行ってきた。ペプチド主鎖上に複数の金属が結合したメタル化ペプチドはα-ヘリックスやβ-シートといった立体構造を誘起することで、金属の空間配置が制御された新たなタイプの集積型金属化合物を与えると期待される。そこで、我々はアミノ酸側鎖に金属錯体が共有結合したメタル化アミノ酸を新たに設計し、それらを互いに連結することでメタル化ペプチドの開発を行った。その結果、パラジウム結合型ペプチドが塩素配位子とアミド水素間の分子内水素結合に基づいて特異な立体構造や自己組織化特性を示すことを見出した。 具体的には、パラジウム結合型オリゴペプチド(n=2-4)を合成し、溶液中における立体構造を解明した。文部科学省ナノ支援プロジェクトの協力のもと920 MHz NMRを用いたNOESYスペクトル測定によって詳細な配座解析を行った結果、メタル化アミノ酸残基の増加に伴ってトリペプチドではα-ヘリックス、テトラペプチドでは3_<10>-ヘリックスが形成されることを明らかにした。このように短いペプチド鎖でヘリックス構造が誘起されるのは金属錯体を結合したことによって初めて見出された新たな立体構造誘起特性である。 また、パラジウム結合型ペプチドが超音波やレーザーといった外部刺激に特異的に応答して自己組織化し超分子ゲルを与えることを見出した。得られたゲルの電子顕微鏡解析やX線粉末解析を行うことで、β-シートに基づく超分子構造が形成されていることを明らかにした。超音波応答性自己組織化に関しては、昨年度の第86回日本化学会春季年会で学生講演賞を受賞するとともに、研究成果をAngewandte Chemieに投稿し、受理された。
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