本年度はCrk-IIの制御機構を明らかにすることを目的としてNMRによる立体構造解析に着手した。Crk-IIは分子量約34kDaであり、そのままでNMRで解析を行うのは困難である。そこでSH2、N端側SH3(以下NSH3)、C端側SH3(以下CSH3)の3つのドメインに分けて解析を行い、それを基にして全長の解析を行った。最初に各ドメインの発現系の構築を試みた。SH2およびNSH3に関しては他のSH2やSH3とのアライメントを基にドメイン境界を決定し、コンストラクトを構築し、発現系を構築した。CSH3に関してもアライメントを基にコンストラクトを設計したが発現しなかったが、N末端側を長めにしたところ発現した。3つのドメインの全てについて^<15>Nラベル体および^<13>C/^<15>Nラベル体を調製し、主鎖および側鎖のNMR信号の帰属および構造計算を行い、構造を決定した。その結果、全てのSH3に共通して存在し標的タンパク質の認識に関るTrpがCSH3ではGlnになっていることが示された。現在のところCSH3の標的分子は未知であるが、SH3のコンセンサスな認識配列である-PXXP-をCSH3が認識しないことが構造解析の結果より予想された。 次に、Crk-II全長の^<15>Nラベル体、^<13>C/^<15>Nラベル体、^2H/^<13>C/^<15>Nラベル体を調製し、NMRスペクトルの帰属を行った。各ドメイン帰属情報を用いることで94%のプロトン原子について帰属した。その結果、ドメイン化したものと全長において化学シフト値が異なる残基が多数存在し、ドメイン間相互作用の存在を示唆している。このことは、何らかの制御機構が存在している可能性を示唆していると思われる。本研究成果の一部は12月に神戸で行われた第27回分子生物学会年会においてポスター発表を行った。
|