本研究の目的は、シオダマリミジンコのメタ個体群において、生息地の空間構造(位置・大きさ・形状)と気候変動によってカタストロフの生起パターン(強度・頻度・空間自己相関)がどのように決定されているか、またその結果、メタ個体群動態はどのように影響されているかを明らかにすることである。 今年度は、夏季と冬季にメタ個体群動態の野外調査を行った。さらに、昨年の春季に行った野外調査のデータを用いて解析を行い、生息地の位置と大きさが、カタストロフの生じる強度と空間自己相関にどのように影響を及ぼしているのかを明らかにした。なお、カタストロフの成因となる自然災害としては、本種の生息地であるタイドプールの干上がりと、波浪による増水に着目した。 結果、以下の知見を得た。1、カタストロフの成因がタイドプールの干上がりである場合には、常にカタストロフの強度は強く、局所個体群サイズが1桁程度減少した。2、カタストロフの成因が波浪によるタイドプールの増水である場合には、カタストロフの強度は変異性に富み、局所個体群サイズが1桁程度減少することもあれば、ほとんど変化しないこともあった。この、カタストロフの強度の変異性と生息地の空間構造との間に明確な関係は見られなかった。3、カタストロフの成因が波浪によるタイドプールの増水である場合には、カタストロフの空間自己相関の大きさは生息地の位置に関係しており、2つのタイドプールの垂直距離が近いほど、カタストロフが同調的に生じた。さらに、垂直方向で近い位置にある局所個体群同士では、カタストロフが同調的に生じることによって、局所個体群動態が同調していた。この、局所個体群動態の空間的な同調性は、本種のメタ個体群において地域的絶滅を生じさせやすくすることによって、存続可能性に影響している可能性がある。
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