一般に、種の存続可能性、すなわちメタ個体群動態の安定性には、カタストロフ(極端に大きな環境変動によって個体群サイズが激減する現象のこと)が強く影響すると考えられている。本研究の目的は、シオダマリミジンコのメタ個体群において、生息地の空間構造(位置・大きさ・形状)と気候変動によってカタストロフの生起パターン(強度・頻度・空間自己相関)がどのように決定されているか、またその結果、メタ個体群動態はどのように影響されているかを明らかにすることである。 17年度は、秋季にメタ個体群動態の野外調査を行った。これにより、春夏秋冬の4季節でのメタ個体群動態の野外調査が終了した。現在は、採取したシオダマリミジンコの試料をもとに、各局所個体群サイズを定量化する作業を継続している。また、一昨年の春季に行った野外調査のデータを用いて解析を行い、カタストロフの原因が波浪によるタイドプールの増水である場合の、局所個体群動態の同調性の決定機構を明らかにした。 結果、以下の知見を得た。1、局所個体群動態の同調性の決定には、カタストロフの生起時に個体群サイズが同調的に激減することよりも、タイドプール内の容積の変動や塩分濃度など、生息地特性が類似していることのほうが重要であった。2、なお、カタストロフはタイドプール内の容積の変動や塩分濃度など、生息地特性の類似性にも影響していた。3、以上の結果から、カタストロフは、生息地特性を改変することによって、局所個体群動態の同調性に長期的に影響を及ぼしている可能性があることが示唆された。
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