研究概要 |
仙台市青葉山のクルミホソガAcrocercops transectaクルミ・ネジキ両個体群を持ちいて,累代飼育を戻し交配まで行い,メス成虫の産卵選好性と幼虫の寄主適応力の遺伝様式を推定した.戻し交配の結果は,両形質がそれぞれ1遺伝子座の1対の対立遺伝子によって支配されており,これらの遺伝子座は常染色体上に存在することを示唆していた.また,両形質には完全優性が存在し,産卵選好性はネジキが優性となるが,幼虫の寄主適応力はクルミが優性となることが示唆された.本結果は昨年度行った雑種第1・2世代の結果と一致しており,これらをまとめて投稿準備中である. また,同個体群を用いてメス成虫の産卵選好性に関する生物検定の手法を開発した.この方法をもとにネジキ個体群の生物検定を行ったところ,ネジキ単体の抽出液にクルミもしくは非寄主(フジ・コナラ)の抽出液を混ぜると選好性が著しく低下する一方,これらの非寄主植物単体の抽出液にネジキ抽出液を混ぜると,選好性が回復した.これらの結果から,植物体に含まれる「産卵刺激物質」と「産卵阻害物質」の両方が,本種の産卵選好性に寄与していることが示唆された. トリブバン大学(ネパール)のThapa教授の協力のもと,カトマンズ盆地周辺でクルミホソガ種群A.leucophaea complexの調査を5月と10月に行った.これにより,2005年度に行う予定のネパール産種A.leucophaea, A.defigurataを用いた交配・産卵選好性実験に最適な生息地を2ヶ所選定できた.また,得られたサンプルを用いて日本産クルミホソガとともに分子系統解析を行ったところ,本種群内でクルミ科・ツツジ科間の寄主転換が独立に複数回生じたこと,また本種群の共通祖先における寄主植物がクルミ科であったこと,がそれぞれ推定された.これらの分子系統解析に関する結果は現在投稿中である.
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