6〜9月まで、仙台市青葉山に生息するクルミホソガAcrocercops trasnectaのクルミ・ネジキ両ボストレースを用いて、(1)交配場所の選好性の有無と、(2)寄主植物の有無が交尾頻度に与える影響を調べた。交配場所の選好性は、ネジキレースのメスで見られたが、ネジキレースのオスとクルミレースでは見られなかった。しかしながら、クルミレースではクルミの葉がある場合に比べ、ネジキの葉があるとき、および何も葉が無いときに交尾頻度の有意な低下がみられた。一方、ネジキレースでは、いずれの条件下(クルミ有、ネジキ有、何も無い)でも有意な交尾頻度の差はみられなかった。これらの結果から、本種においては交配場所の選好性はレース間の隔離機構としては不十分であることが示唆された。また昨年度までの結果から、F1世代はクルミ上では生存可能であることが分かっており、本結果はネジキレースからクルミレースへの遺伝子流入が生じるうることを示している。 4〜5月と10〜11月はネパール王国カトマンズ盆地周辺において、A.leucophaeaとA.defigurataの寄主特異性およびレース間交配能力を調べた。その結果、A.leucophaeaの幼虫はクルミ科のEngelhardtiaとツツジ科のネジキの両方を利用できることが分かった。メス成虫の産卵選好性は、クルミ上・ネジキ上いずれの集団でもネジキを好む傾向がみられた。同様に、交配場所も両集団ともネジキを選好したが、交配場所の選好性はメスのみでみられた。また、ネジキ上とクルミ上の集団間での交雑は、ネジキ間・クルミ間のコントロールと有意差無く起こった。以上の結果から、A.leucophaeaではクルミ上とネジキ上の集団間でホストレース分化が生じていないと考えられる。分子系統の結果は両集団間で遺伝的分化がみられないことを示しており(Ohshima and Yoshizawa 2006)、今回の寄主特異性の結果と一致する。A.defigurataに関しては、幼虫はクルミしか利用できず、メス成虫もクルミに産卵選好性を示した。よって、幼虫のネジキ利用能力はA.leucophaeaとA.transectaの共通祖先で獲得されたと考えられる。
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