研究概要 |
N_2O(亜酸化窒素)は,地球温暖化およびオゾン層の消長にも関与している物質であり,近年大気中で増加傾向にある.本研究は,沿岸域におけるN_2Oの大気への発生量を見積もるとともに,発生過程の解明をも目的としている.調査地として海跡湖である茨城県の涸沼(面積9.35km^2)を選択した.本年度はまず,涸沼の環境を知るために基礎調査を行った. 涸沼の湖水の塩分濃度は1〜10psu程度で,2〜3m付近に塩分躍層が見られた.しかしながら,底層の溶存酸素は完全に無酸素とはなってなかった(7月と11月).これは,容易に風で水の上下混合が起こるためか(最大水深6.5m,平均水深2.1m),あるいは潮位差によって溶存酸素を含んだ海水が入ってくるためであると考えられた. 涸沼湖岸における湖水中のN_2O濃度は,0.6〜1.3μgN 1^<-1>であった.この濃度は,大気平衡時の溶存N_2O濃度よりも大きく,1.5倍〜3.5倍であった.特に,流入河川の河口付近(大谷川)でN_2Oは高い濃度で湖水中に蓄積していることが分かった.河口付近の窒素イオン種(NO_3^-,NO_2^-,NH_4^+)の濃度は開水面のイオン濃度より高かったことから,河口付近はN_2O生成さらに大気への発生に重要な場ではないかと推察した.今後,涸沼湖岸の植生区と無植生区におけるN_2Oの放出・消失量をチャンバー法により測定し,大気中のN_2Oへどの程度寄与しているのか見積もる計画である.また,底泥および湖水を用いたインキュベーション実験により,N_2Oがどのようなメカニズムによって生成・蓄積し,大気中へと放出を遂げるのか明らかにしたいと考えている.
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