窒素固定酵素ニトロゲナーゼは、反応の必然的副産物として水素を発生するので、ラン色細菌のニトロゲナーゼ反応を利用した光生物的水素生産により、莫大な太陽光をエネルギー源とし、再生可能な水素エネルギーを生産することを目指している。本研究は、ゲノム情報を利用できるAnabaena PCC7120をモデル生物として、遺伝工学的に改変し、水素生産に及ぼす効果を検討しつつ次第に改良を進めていく戦略の基に研究を行っている。発生した水素を再吸収する可能性のある2種のヒドロゲナーゼ遺伝子の一方および両方を破壊したところ、取込み型破壊株(ΔhupL)では、野性株に比べ水素生産の最大活性がアルゴン気相下で4-7倍に増大し、吸収可視光の水素への最大エネルギー変換効率は最大値で約1.0-1.6%であった。しかし、(1)変換効率がまだ不十分、(2)最大活性が持続しない、(3)高光強度下での効率低下という問題があることがわかった。 次に、これらを解決しさらなる改良を目指してΔhupL株を基に、ニトロゲナーゼ関連酵素遺伝子を改変した。ニトロゲナーゼのMoFe_7S_9活性中心クラスターにはホモクエン酸が配位し、他生物では、ホモクエン酸合成酵素NifVの遺伝子を破壊すると窒素固定の効率が下がり、水素生産へ向かう電子配分比率が増加すると報告されている。nifV遺伝子破壊により、水素生産が増大し同時に窒素固定効率の低下により窒素源供給量が不足するので、水素生産活性も持続するようになると考え、Anabaena PCC7120の2コピーあるnifV遺伝子の一方または両方の破壊株を計3株作製した。その一株は、ΔhupL株と比べ水素生産の最大活性がアルゴン気相下で約2倍増大し、窒素ガスを含む気相下ではさらに顕著に増大した。
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