窒素固定酵素ニトロゲナーゼ(N_2ase)は、N_2固定反応の副産物として必ず水素を発生する(N_2+8e^-+8H^++16ATP→2NH_3+H_2+16ADP+6Pi)。われわれは、ラン色細菌のN_2固定と光合成反応を利用して、莫大な太陽光をエネルギー源とし、再生可能な水素を生産することを提案している。 これまでに、ゲノム情報を利用できるAnabaena PCC 7120をモデル生物とし、発生した水素の再吸収に働き生産の妨害になると考えられる取込み型ヒドロゲナーゼの遺伝子破壊株(ΔhupL)を作製し、水素生産の最大活性がアルゴン気相下で野性株に比べ4-7倍に増大することを示した。しかし、N_2aseからの還元力の大部分(6e^-/8e^-)はN_2固定に使われるため、水素生産の効率がまだ十分でない。したがって、N_2ase反応における電子配分比率(水素生産とN_2固定の比)を水素生産の方へ増加させれば、水素生産性がさらに向上し、同時にN_2固定効率の低下により窒素源供給量が不足するので、高い水素生産活性も持続するようになると考えられる。 Klebsiella pneumoniaeにおいて、N_2aseの活性中心クラスター(FeMo cluster)に配位するホモクエン酸の合成酵素NifVの遺伝子破壊株では、N_2固定は大幅に低下し水素生産への電子配分比率が増加すると報告されている。本研究では、Anabaena PCC 7120において2つあるnifV遺伝子(nifV1、nifV2)の一方または両方を破壊した株を野生株とΔhupL株から作製した。それらの株のアルゴンおよびN_2気相下での水素生産性を調べたところ、ΔhupL/ΔnifV1株は、親株であるΔhupL株と比べ水素生産活性が増大し、特にN_2気相下ではアルゴン気相下よりも顕著に増大した。さらにΔhupL株よりも高い活性が持続していた。これらの結果から、nifV1破壊株のN_2aseでは、水素生産の方へ電子配分比率が増加していることが示唆された。また、nifV1とnifV2遺伝子の発現をノーザンプロットおよびGFP蛍光により調べたところ、それぞれの発現の時期、局在、強度が異なり、nifV1破壊株(nifV2は持つ)では、N_2aseに配位するホモクエン酸の濃度が低下していることが示唆された。
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