繁殖期のアマゴにおける、体側模様を介した状況依存的メス擬態戦略について野外調査により明らかにした。秋の繁殖期において、アマゴのメスは産卵床を掘るなどの繁殖行動を通じて、放卵直前に体側模様が側線から下にかけて黒化する。メスが産卵床を掘っている間、サイズの大きい優位オスは、スニーキングしようとする比較的小さな劣位オスからメスをガードする。このとき、劣位オスの一部(70%)は、放卵直前のメスと同じ黒化した体側模様を呈する。モデル実験により、このような劣位オスの黒化した体側模様が、優位オスの攻撃を弱める効果があることが明らかになった。また、ペアの放卵放精の瞬間に突進して放精できたのは、いずれもメスに擬態した劣位オスであった。このように、劣位オスは放卵直前のメスの体側模様を真似ることで、優位オスからの攻撃を回避し、スニーキングのチャンスを高めることができた。ここまでの話は、多くの体外受精の生物種において報告されているメス擬態戦略に関する枠を越えないが、本研究ではさらに、このようなメス擬態戦略が状況依存的であることを示した。アマゴは両性ともに、一回の繁殖期に多数回産卵する。繁殖行動の観察において個体を遠隔的に個体識別することにより、その個体の社会的地位(優位オスか劣位オス)の変動と体側模様の変動の履歴を記録し、その二つがどう関連しているかを洗い出した。その結果、同一個体が社会的地位の変動に合わせて都合よく体側模様を変えていることが明らかになった。これらの結果は、代替繁殖戦略の可塑性に関する議論に、一つの新たな事例を与えるものである。 また、これまで河川型サケ科魚類の研究においては、外見による雌雄の判別が困難であった。そこで、魚の口から胃に小指を挿入することによって生殖腺を間接的に触診し、雌雄を判別する方法を開発した。
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