本年度は、マイクロクラスターの構造転移で観測される原子集団の協同現象について研究を行った。 多数個の要素で構成される体系の変化は、各要素が協調し相互作用することで、系全体は集団的挙動を示す。つまり、系の変化を記述する反応座標を定義した場合、要素の協同変化で表される集団自由度となる。本研究では、2成分クラスターで観測される混合・偏析に注目し、緩和過程における系の状態変化が集団運動によって特徴付けられることを明らかにした。 具体的には、まず、原子種の混合状態を記述する集団変数(混合変数)を新たに導入した。緩和過程に伴う混合変数の時間変化を追跡することで、構造転移で観測される集団運動を調査した。検証対象として実験・理論の先行研究が豊富な希ガス混合系に注目し、対応する有効近似モデルである2成分レナード・ジョーンズ・クラスターの古典動力学計算を行った。 体系は自由エネルギーが最小値を選ぶ方向に変化する。このとき、終状態に至るまでに経巡る経路、経路に沿った反応速度について、マイクロクラスターに関する詳細は明らかではなかった。クラスターの局所振動運動は、低波数領域に分布する表面原子を主成分とする集団運動(表面モード)と、高波数領域に分布するクラスター内部の原子を主成分とする集団運動(内部モード)に、周波数領域で階層的に分離している。表面モードのみが励起される低振動(低温度)状態において、クラスター表面の原子集団のみが活性化する表面融解現象を観測した。緩和過程を解析した結果、得られた混合変数の時間発展は間欠的であり、時間揺らぎの周波数成分はベキ分布を示した。 以上の結果から、マイクロクラスターの緩和過程では、時間スケールの異なる2つの集団モード(表面モードと内部モード)が同期・非同期を繰り返すことで、系の状態は間欠的に終状態に向かい緩和すると考えられる。
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