本研究では、前年度に引き続き、海獣狩猟の特徴的な道具とされる銛頭を主たる対象とした研究を行った。山陰および東海地域において弥生・古墳時代の資料を対象に資料調査を行い、銛頭に限らず一遺跡出土の関連資料を全点観察することによって、当該地域における骨角製狩猟漁撈具の体系を把握することに努めた。近年急激に関連資料が増加している西日本では、骨角器についての型式学的な研究の蓄積が乏しいため、先行研究の多い続縄文文化を含む日本列島北部の資料と比較的安易に結び付けて論じる傾向にある。しかし、個々の地域において地道な編年研究を積み上げていくことによってはじめて、広域的な変遷過程を描き出すことが可能になるであろう。 北海道モヨロ貝塚における調査では、魚骨層が検出された8号竪穴住居の調査を終了し、整理作業を進めている。道東オホーツク文化において層位的状況が明らかなまとまった資料は珍しく、今後の基準資料となりうるものである。これと対比すべく道北地域における代表的遺跡である香深井遺跡出土の骨角器についても資料調査を行った結果、型式面だけではなく破損・再加工という点においても興味深い違いがみられることが明らかになった。 ロシア連邦サハ共和国の資料調査においては、シベリア内陸部レナ川流域の銛頭の他に、北極海沿岸における古エスキモー文化の資料やオホーツク海北岸の古コリヤーク文化の資料を観察することができた。また次年度に予定しているアラスカでの資料調査に向けての基礎作業として、東京大学考古学研究室列品室所蔵のアラスカ出土資料の再整理作業を行った。従来の研究で採用されてきた銛頭の型式学的な分類基準に実験的な裏付けを与えるために、レプリカによって銛頭の使用時の運動の再現実験を行った。
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