今年度は、以下2つの分析課題に取り組んだ。第一に、昨年度後半期に行った、アメリカにおける非学位課程(サーティフィケート・プログラム)の普及課程の分析をさらに進めた。第二に、こうした課程の増設に正当な根拠を与えた、正規の学位課程からの学生の退学行動に焦点をあてて、学生の進学・就業キャリアのより詳しい分析を行った。 第一の課題については、以下の3点が明らかになった。(1)短期職業課程から始まった非学位課程は、職業課程から学術課程への転学が阻止されてはならないという政策的傾向のもとで、学術課程にも広がっていった。そこには営利大学の拡大が大きく影響していた。(2)専門職、学術、職業のいずれにも純粋には該当しない、比較的新しい学問分野や準専門職要請分野において、学位とサーティフィケートとを併設した課程が多く見られるようになった。(3)こうした課程では、従来の職業課程のように格安で教育機会が提供されることはなく、学位課程に匹敵する高額の授業料で教育機会が提供される傾向が見られた。教育機会の開放という政策的志向が、帰結として市場的な傾向を強く持った教育機会の増加につながった過程を見出すことができた。 第二の課題については、以下の2点が明らかになった。(1)1960年代から1980年代にかけて、「退学はいけないことだ」という学生側の規範が緩み、退学が1つの就学選択としてありふれたものに変化した、(2)それは、若者のキャリア展望のあり方と強く関連していた。現在でも、アメリカの大学では、新入生導入教育をはじめとする退学防止策と、退学経験者をサポートしようとする退学容認的な施策とが混在しているが、単に並存させるのでなく、若者のキャリアと連関させながら両者のバランスをとる枠組みが求められることを示した。 以上の研究成果は、それぞれ東京大学大学院教育学研究科紀要第45巻(印刷中)、日本高等教育学会第8回大会にてそれぞれ発表した。
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