本研究の目的は、国境を超える社会正義論の倫理的根拠として、慈善にもとづく援助義務および正義が要請する財の分配義務とは別の角度から懸案の倫理的根拠を示すことである。それによって、国籍ないし市民権に規定されない道徳的権利義務が明らかとなり、さらには同様の政治的権利義務とそれらを実現可能とする諸制度について構想することが可能だと思われる。本研究の初年度の予定としては、マーサ・ヌスバウムとストア哲学の文献、またそれらに関連する文献の精読を開始し、ヌスバウムとの面会を行うことであった。 平成16年度科学研究費補助金の実績として、本質主義にもとづくヌスバウムのケイパビリティ・アプローチの概要を掴むことができた。また、ヌスバウムと、同様にケイパビリティ・アプローチをとるアマルティア・センの比較をつうじて、グローバリゼーションの基準となりうる「基本的ケイパビリティ」の内容を精査することができた。私見では、「自己肯定感」を中心的なケイパビリティとする理論構成の方が、ヌスバウムとセンのアプローチよりも、優れている。 科学研究費補助金による本年度の研究発表としては、平成16年5月に『現代規範理論入門-ポスト・リベラリズムの新展開』を共著で図書し、平成16年7月に「コスモポリタニズムの社会正義論」を雑誌発表することができた。また、平成16年9月にイタリアのパビア大学で開催された第4回ケイパビリティ・アプローチ国際会議では、パワーポイントを使用して"Saving a Goof Life in Modern Democracies"を口頭発表することができた。当地ではヌスバウムと面会することができた。
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