本研究の目的は、国境を越える社会正義論の倫理的根拠として、慈善にもとづく援助義務および正義が要請する財の分配義務とは別の角度から懸案の倫理的根拠を示すことであり、それによって国籍ないし市民権に規定されない道徳的権利義務が明らかとなり、さらには同様の政治的権利義務が明らかになると思われる。本研究の2年度の予定としては、グローバルな正義に関する文献の精読をすすめることであった。 平成17年度の科学研究費補助金の実績として、ヌスバウムのアリストテレス的本質主義とロールズの契約主義の相違を明らかにすることができた。人びとの徳-他者への共感やコミットメントの能力の重要性を注視するヌスバウムのアリストテレス的本質主義には、グローバルな正義の実現を可能たらしめる倫理的な力がある。 本年度は、平成17年4月に日本平和学会で「グローバルな正義〜ケイパビリティ・アプローチの可能性〜」について、同年11月に日本政治社会学会で「発展の政治学〜ヌスバウムのケイパビリティ・アプローチにおける普遍性の論拠とその検討」について、報告し、9月にフランスのパリ、ユネスコ本部で開催された第5回ケイパビリティ・アプローチ国際会議に参加することができた。
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