研究概要 |
更新世および完新世における日本海の古海洋環境を復元するため,海底から採取された堆積物コアの放散虫化石群集を検討した.本年度は,(1)過去22万年間のデータを出して論文を執筆すると共に,(2)これまで充分に吟味されていなかった完新世の詳細な高解像度データについても検討を行った. (1)国際プロジェクトIMAGESの航海で2001年に採取された2本のコアMD01-2407およびMD01-2408と2002年にJAMSTECの調査船「かいれい」によつて採取されたコアD-GC6の分析を行った.コアMD01-2407とMD01-2408は,それぞれ過去56万年と22万年,コアD-GC6は3万年を連続的に堆積物が記録されていることがわかっている.これらのコアのうちコアMD01-2407に関しては,過去16万年のみを分析した.3本のコアからは全部で350層準について分析され,全ての試料から放散虫が産出した.放散虫の個体数は,間氷期で多く,氷期で少ない傾向がある.間氷期に卓越する種は,主に対馬海流に適応した温暖種であり,対馬海流が間氷期に強かったことを示している.一方,氷期に卓越する種は現在のベーリング海などの寒冷な地域に適応しているものである.また,深海に生息する種が数百年〜数千年の周期で増減を繰り返していることも明らかになった.これは,日本海の深層循環と密接な関係があるものと考えられる.約8.4万年前と5.5万年前に絶滅する種も認められ,これらが放散虫の化石層序に有効な鍵種となる可能性がある. (2)完新世における対馬海流の流路や中層水の変化を明らかにするため,1987年に地質調査所(現産業技術総合研究所)が日本海南部の鳥取沖で採取したコアGH872-308を検討した.最近,このコアの年代的な考察がなされ,過去1.3万年を連続的に記録していることが明らかになりつつある.その予察結果と前述のコアD-GC6との比較によれば,対馬海流の流路が気候変動にともなって大きく変化していた可能性が出てきた.すなわち,寒冷な時期には対馬海流の主軸が沖合にシフトしていたかもしれない.今後,より詳細な調査を行って,その実体を解明する予定である.
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