分子軌道計算における溶液中での反応を扱う理論開発に先駆け、PNNL研究所Dupuis博士の研究協力を得てDirect ab initio分子動力学計算をもちいて水溶液モデル中の水分子のイオン化過程の動力学とメカニズムの解明を行った。このイオン化に伴う初期反応過程は高速なため実験だけではその理解は難しく、理論的な解析が重要になる。今年度は水溶液中の水をあらわすモデルとして第一水和圏含み四面体型の水素結合ネットワークを形成したゲージ型の水17量体クラスターを使用し、水溶液中の初期過程の 1)反応機構と動力学の特徴 2)その動力学における媒体[バルクな水]の効果 3)エネルギー移動に伴う周囲の局地的に温められた媒体中でのプロトン移動反応の理論的解明を行った。 分子動力学計算で得られたトラジェクトリーを解析することにより水カチオンラジカルと隣り合った2つの水分子で形成する部分で反応性が高く、反応終身部分で初期のプロトン移動反応が起こり、水酸化物イオンと水酸基ラジカルが生成する最初の反応は50フェムト秒以内には終了することを明らかにした。更に、反応の中心部分とその周辺(媒体)部分の運動エネルギーを分割した結果、イオン化が起こると直ちに媒体部分の運動が活発になり、局地的に温度が上昇する現象を解明した。これは水素移動反応と共にイオン化によって静電的に不均衡になった溶媒の移動も初期課程の特徴として挙げられる。更に2種類の水4量体の分子動力学計算によって、四面体型の水素結合ネットワークが水溶液モデルでの初期反応過程の特徴付ける事も明らかにした。
|