1)本研究の目的は、SNPデータを用いて、アジア太平洋地域の人類集団における移動、混血や集団サイズといった人口学的な歴史を推測すること、および、遺伝子に働く自然選択を検出することにある。そのためには、各SNPの頻度だけではなく、SNP間の連鎖不平衡を考慮に入れた解析が必要であるが、そのための解析方法は十分には確立されていない。そこで、集団間における連鎖不平衡の違いや遺伝的分化を測定するための統計量として、rOHHやrOMaHHを開発した。また、HapMapプロジェクトによる大規模SNPタイピングデータとコンピュータシミュレーションを利用して、その有効性を調べた。 2)ポリネシアのトンガ人およびメラネシアに位置するニューギニア島のギデラ族において、アフィメトリックス社のGene Chip Mapping 500K Assayを用いて、ゲノムワイドな約50万箇所のSNPタイピングを行った。これらの結果は、アフィメトリックス社が公開するアフリカ人、ヨーロッパ人およびアジア人集団のSNPタイピングデータと併せて現在解析中である。 3)ミトコンドリアのDNA(mtDNA)は、系統関係を調べる道具として使われてきたが、自然選択の対象としてはあまり扱われてこなかった。ポリネシア集団のmtDNAは多集団から遺伝的に分化していることから、自然選択が働いた可能性も考えられる。本研究では、ソロモン諸島集団においてmtDNAの多型とBMIの関連を調べたところ、有意な関連が観察された。今後、多集団においてもこの関連を確認すること、および、mtDNAの遺伝的分化が中立のもとで説明できるかを検定することが必要である。
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