アポトーシスは生物に不必要となった細胞を除去するシステムとして極めて重要な役割を果たしている。これまでCaspaseを中心にアポトーシス実行経路の研究がなされてきた一方で、近年Caspaseに依存しない自律的な細胞死が存在することが示唆され、より大きな概念としてプログラム細胞死という考え方が提唱されている。本研究ではこれまでに、MST1がストレス応答MAPKであるJNKを介してCaspaseの活性化と細胞死を制御することを明らかにした。また、MSTIによって誘導される細胞死で観察される様々な変化がCaspaseに依存しないことを見いだした。これらのCaspase非依存的な変化の中でも特に核周辺部でのクロマチン凝集は、多くの細胞死誘導系でCaspaseを阻害しても進行することが示されており、JNKがCaspase非依存的な細胞死実行経路のトリガーとして働く可能性が示唆された。そこでCaspase非依存的な細胞死実行経路へのJNKの関与、およびその標的分子を明らかにする為に、遺伝子のノックアウトが可能なES細胞を用いてEGFP融合ヒストンH2Bによって核周辺部へのクロマチン凝集をレーザー共焦点顕微鏡を用いて解析できる系を構築した。この系を用い、ES細胞においてもMST1がCaspase非依存的に核周辺部でのクロマチン凝集を引き起こすことを明らかにした。現在、MST1の下流でJNKを活性化する分子であるMKK4/7のダブルノックアウト細胞を用い、JNKのこの経路への関与を明らかにする実験を進めている。また、これまでにMST1が核へと局在を変化させることにより核凝集を進行させるという知見を得ており、JNKの活性の空間的制御が細胞死制御に重要であることが示唆される。そこでMST1を局所的に発現させ、JNKが局所的に活性化される系を構築し、JNKの作用点の局在解析を進めている。
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